ごくらく日誌

 「絆」

誰もがあの時、この人は死ぬと思った。青白い皮膚。脂肪はぬけ落ち、骨と皮だけになった身体。市販の血圧計では測定できぬほど、心臓の力は弱くなっていた。目を閉じて全神経を集中させながら、ヤエコさんの手首に僕の中指を当てる。そうやってわずかに触れ…

 呼び名

90歳の外水さんは、職員から「外水さん」と呼ばれたり、「おばあちゃん」と呼ばれたりする。93歳の針江さんは「スミさん」と呼ばれたり、「おばさん」と呼ばれたりする。86歳の町金さんは「町金さん」と呼ばれたり「大先生」、もしくは「お父さん」と呼ばれ…

 ごくらく日誌 「奇声」

ハナコさんは時々、大きな声をあげる。その声は言葉にならず「キヤ〜アアア」だったり「ニヤ〜アアアン」だったり。意味のある言葉ではない。つまり、奇声なのだ。けれど、その奇声には感情がこもっている。その感情は怒りであることが多い。 怒りのこもった…